色弱の人にしか見えない数字とは？見え方の違いが教えてくれる優しさの意味

「あなたには数字が見えますか？」という問いかけとともにSNSで拡散された、カラフルな丸い画像。

実はこれ、「色弱の人にしか見えない数字」を使った色覚検査に基づくものです。

同じ画像を見ているのに、ある人には数字が見えて、別の人にはまったく見えない──。

その違いの裏には、人間の目の仕組みや遺伝のしくみ、そして「色の感じ方」という奥深い世界があります。

この記事では、色弱の人の見え方を科学的にやさしく解説しながら、色覚の多様性が持つ意味を考えます。

見え方の違いを知ることは、誰かへの理解と優しさを広げる第一歩。

「色弱の人にしか見えない数字」が教えてくれる“世界の見え方の多様性”を、一緒に体験していきましょう。

色弱の人にしか見えない数字とは？その意味と背景

「色弱の人にしか見えない数字」という言葉は、SNSでたびたび話題になります。

カラフルな丸の中に数字が隠されている画像を見て、「自分には見える」「全然見えない」とコメントが分かれる――。

実はこの現象、単なる話題ではなく、人間の目の仕組みを理解する手がかりなのです。

SNSで話題の画像「あなたには数字が見えますか？」とは

「あなたには数字が見えますか？」という問いかけで拡散された画像は、医学的には「石原式色覚検査表」と呼ばれるものをベースにしています。

これは日本の眼科医・石原忍博士が開発した色覚テストで、現在も世界中で標準的に使用されています。

この画像の中には、背景と同じような色で構成された数字が描かれており、色覚のタイプによって“見えるかどうか”が変わるのです。

見え方のパターン	通常の色覚の人	色弱の人
数字の判別	「12」「74」などが明瞭に見える	異なる数字や、何も見えない場合がある
原因	3種類の錐体細胞が正常に働く	1種類以上の錐体細胞の感度が低下している

同じ画像を見ても、見える世界が違う――それが「色弱の人にしか見えない数字」が示す現実です。

「見える人・見えない人」で何が違うのか

人間の目の網膜には「杆体」と「錐体」という2種類の光センサーがあります。

このうち色を感じ取るのが錐体細胞で、赤（L）、緑（M）、青（S）にそれぞれ反応する3タイプがあります。

通常の色覚では、この3種類の錐体がバランスよく働き、脳がその組み合わせをもとに色を判別します。

しかし、色弱の人ではこのうちの1種類、もしくは複数の錐体が正しく反応しません。

錐体のタイプ	感度の対象色	異常がある場合
L錐体（赤）	長波長（赤系）	赤がくすんで見え、緑との区別が困難（第1色弱）
M錐体（緑）	中波長（緑系）	緑と茶、黄の識別が曖昧（第2色弱）
S錐体（青）	短波長（青系）	青と紫の判別が難しい（第3色弱）

つまり「見え方の違い」は、目の性能の優劣ではなく、錐体細胞の反応パターンの違いなのです。

色弱（色覚異常）とは？遺伝や仕組みをやさしく解説

色弱は医学的に「色覚異常」と呼ばれますが、これは病気ではありません。

むしろ人間の色の感じ方に存在する自然な多様性のひとつです。

多くの色弱は先天性で、赤や緑を識別する遺伝子がX染色体上にあるため、男性に多く見られます。

タイプ	主な原因	特徴
先天性	X染色体上の遺伝子変異	赤緑系の識別に影響（生まれつき）
後天性	病気・薬・加齢など	特定の色が一時的に識別しにくくなる

女性はX染色体を2本持つため、両方に異常がない限り発症しません。

しかし、1本にだけ異常がある女性は「保因者」として、子どもに遺伝させる可能性を持ちます。

つまり、色弱は“誰かだけのこと”ではなく、すべての家族に関係する可能性があるテーマなのです。

この遺伝の仕組みを理解することで、学校や職場での配慮がなぜ必要なのかも見えてきます。

次の章では、実際に「色弱の人にしか見えない数字」がどんな科学原理で作られているのかを解説していきましょう。

色弱テストの仕組みと「数字が見える理由」

色弱の人にしか見えない数字は、偶然ではなく、科学的な仕組みに基づいて設計されています。

この章では、医学的に使われている色覚検査の原理や、なぜ「見える・見えない」の違いが生まれるのかを、わかりやすく解説します。

「石原式色覚検査表」の原理をわかりやすく解説

「石原式色覚検査表」は、1918年に日本の眼科医・石原忍博士が考案した色覚検査です。

このプレートには、大小さまざまな色の点が集まっており、その中に数字が描かれています。

通常の色覚の人と色弱の人では、数字の見え方が異なります。

プレートの種類	見える人	特徴
第1類（デモンストレーション型）	全員	説明用。「12」など全員が見える数字。
第2類（変化型）	通常色覚・色弱で異なる	通常の人は「74」、色弱の人は「21」と見えるなど。
第3類（消失型）	通常色覚のみ	色弱の人には数字が消えるように見える。
第4類（隠蔽型）	色弱の人のみ	通常色覚では数字が見えず、色弱の人だけが判別できる。

特に第4類のプレートが、SNSなどで「色弱の人にしか見えない数字」として話題になるものです。

「色弱の人にしか見えない数字」はどう作られているのか

この不思議な数字は、緻密な色彩設計に基づいて作られています。

背景と数字の部分で使用されている色は、色相（色み）、明度（明るさ）、彩度（鮮やかさ）が微妙に異なります。

通常の色覚の人にはほぼ同じ色に見えるよう設定されていますが、特定の型の色弱の人には違いが強調され、数字が浮かび上がるように設計されているのです。

対象の色覚タイプ	設計される色の特徴	見え方の違い
1型色覚（赤錐体異常）	赤と緑の識別が困難	通常色覚では同化して見える赤系統が、1型の人には対照的に見える。
2型色覚（緑錐体異常）	緑と茶・黄の区別が難しい	緑〜黄緑の境界が明確に見えるよう設計。
3型色覚（青錐体異常）	青と紫の区別が難しい	青紫系の微妙な差を強調して構成。

つまり、「色弱の人にしか見えない数字」は、視力や集中力ではなく、錐体細胞の反応の違いを利用して作られた科学的デザインなのです。

この設計には、色彩学・神経科学・視覚心理学の要素がすべて関係しています。

オンラインでできる色覚テストと注意点

近年では、医療機関に行かなくても、スマートフォンやPCで色覚テストを体験できるようになりました。

例えば「PILESTONEオンライン検査」や「ColorBlindnessTest.org」などでは、2分ほどで自分の色覚タイプを簡単にチェックできます。

しかし、これらのオンラインテストには注意点もあります。

• 画面の明るさ・色温度によって結果が変わる
• 色補正メガネを着用したままでは正確な判定ができない
• 目の疲れや照明の影響も結果に影響を与える

そのため、オンラインテストはあくまで「自己理解のための目安」として活用するのが望ましいです。

正式な診断は、必ず眼科医による専門的な検査を受けることが推奨されます。

次の章では、実際に「色弱の人にはどんな世界が見えているのか」を体験的に理解していきましょう。

色弱の人の「世界の見え方」を体験してみよう

色弱の人の見え方は、単に「色が見えにくい」というものではありません。

むしろ、私たちが普段「当たり前」と思っている色の感じ方が、まったく異なる世界として見えているのです。

この章では、その“違う世界の見え方”を、具体的な事例とシミュレーションを通して体験していきましょう。

赤と緑が見分けづらいってどういうこと？

最も一般的な色弱は「赤緑色覚異常」と呼ばれるタイプです。

これは赤や緑の見分けが難しいというよりも、「赤み」「緑み」の感じ方そのものが異なっている状態です。

たとえば、赤っぽい緑や、少し黄みがかった赤は、ほぼ同じ色に見えることがあります。

色の種類	通常の色覚	色弱の見え方
信号の赤と緑	はっきり区別できる	どちらも暗いオレンジや茶色に見える
紅葉の赤	鮮やかに映える	地味でくすんだ色に見える
肉の焼き加減	赤→ピンク→茶色の変化で判断	赤と茶の区別がつきにくい

つまり、色弱の人にとって“赤と緑の区別”は「暗い色どうしの違い」を見分けるような感覚なのです。

食べ物・信号・グラフなどで起こる「色のすれ違い」

日常生活の中では、さまざまな場面で“色による誤解”が起こります。

焼肉の焼き加減、学校のチョークの色、信号機のライトなど、色が情報を伝えるシーンで特に違いが出ます。

場面	通常の色覚	色弱の見え方・課題
焼肉	赤身→茶色で焼き加減を判断	赤と茶の差がわかりづらく、生焼けに見えない
黒板	赤や青で強調された文字が読みやすい	背景と同化して文字が見えにくい
グラフ	赤・緑・青などの区別が明確	赤と緑の線がほぼ同じ色に見える
信号機	位置と色で判断可能	LED信号では赤と黄が見えにくくなる場合がある

こうした“色のすれ違い”は、本人の注意力ではなく、情報設計側の配慮によって改善できます。

「見えない人が悪い」のではなく、「見えるように伝える工夫」が社会全体に求められているのです。

シミュレーション画像でわかる色覚の多様性

最近では、色覚の違いを体験できるシミュレーションツールが多数登場しています。

これらを使うと、赤緑色覚異常や青黄色覚異常、さらには全色盲まで、さまざまなタイプの見え方を擬似的に体験できます。

ツール名	特徴	体験できる内容
色のシミュレータ（浅田一憲氏開発）	写真をアップロードして色覚別に表示	1型・2型・3型の違いをリアルに体験可能
NPO「人にやさしい色づかいをすすめる会」	背景色と文字色の見え方を比較	C型・P型・D型・T型・モノクロで検証
Qiita公開シミュレーター	RGB変換行列で科学的に再現	各色覚タイプの見え方を瞬時に比較

これらの体験を通じてわかるのは、色弱の人にとって「見えない」わけではなく、「違う見え方をしている」という事実です。

そしてその違いこそが、人間の多様性を示すひとつの形なのです。

色弱の見え方を理解することは、単なる知識ではなく「他者の世界を想像する力」を育む体験なのです。

次の章では、この理解を社会の仕組みにどう活かしていくのかを見ていきましょう。

色弱を理解する社会の動きとデザインの工夫

色弱という特性を理解し、誰もが快適に情報へアクセスできる社会を目指す「色覚バリアフリー」の取り組みが、今、さまざまな分野で広がっています。

教育現場から企業、公共施設、ゲーム業界に至るまで、色の使い方に対する意識が大きく変わり始めています。

この章では、社会の中で進む色覚への理解と、そのために行われている工夫を見ていきましょう。

学校での支援と教材の工夫

学校は、色覚の多様性を尊重する取り組みが最も進んでいる場所のひとつです。

特に黒板や教材の色使い、採点方法など、子どもたちの学びを支える現場での工夫が積極的に行われています。

取り組み	内容	効果
チョーク・マーカーの改良	白や黄色など、色弱の子どもにも見やすい色を採用	授業中の文字や図がより明確に見える
教科書・教材の見やすさ	彩度と明度の差を重視し、情報を形や模様でも区別	すべての生徒が同じ情報を正確に理解できる
理科実験での工夫	色変化だけでなく温度や沈殿の有無など複数の指標で判断	色に依存しない学習の仕組みが実現

このような工夫は、単に色弱の生徒を支援するだけでなく、すべての子どもにとって理解しやすい教材設計にもつながっています。

色覚バリアフリーとは？公共デザインやゲームの取り組み

「色覚バリアフリー」とは、色に依存しない情報伝達を目指す考え方のことです。

公共デザイン、ゲーム、アプリ、インターフェースなど、日常のあらゆる場面で取り入れられています。

分野	具体例	配慮内容
公共施設	駅や空港の案内表示	色だけでなく形や文字を組み合わせて区別
信号機	赤・黄・青みどりの改良型LED	赤と緑の見分けを容易にし、安全性を向上
ゲーム	「パズドラ」「Apex Legends」など	色覚サポート設定で配色を自動調整
IT・OS機能	Apple・Android・Windowsの設定	カラーフィルタ機能で見やすさをカスタマイズ

これらの工夫は、見え方の違いを“障害”ではなく「多様性」として尊重する文化の広がりを象徴しています。

特にデジタル分野では、ユーザーが自分に合った見やすさを選べる「パーソナライズド・デザイン」の発想が注目されています。

誰もが見やすい色づかいのヒント

日常生活やデザイン制作の中でも、少しの工夫で色覚バリアフリーを実現できます。

以下のポイントを意識することで、誰にとっても見やすく伝わりやすい配色が可能になります。

ポイント	具体例
彩度と明度の差を使う	赤と緑ではなく、明るい緑と暗い赤などで差を出す
色以外の情報を加える	形・模様・文字・数値などで補足する
モノクロで確認する	印刷前や発表前に、白黒でも情報が伝わるかを確認
危険表示は色＋形で示す	赤い警告マークに三角形や！マークを併用

色覚に配慮することは、特定の人のための工夫ではなく、誰もがより快適に暮らせる社会をつくるデザインなのです。

次の章では、「色弱の人にしか見えない数字」が私たちに教えてくれる、本当のメッセージについて考えていきましょう。

まとめ：数字が見える・見えないの先にある「多様な見え方」

「色弱の人にしか見えない数字」という話題は、単に視覚的な違いを面白がるためのものではありません。

それは、私たち一人ひとりがどんな世界を見ているのか――そして、その「見え方の違い」をどう受け止めるのかを考えるきっかけなのです。

この章では、色覚の多様性が持つ意味と、それを理解することで生まれる共感についてまとめます。

「違い」ではなく「多様性」としての色覚

色弱は長い間「色覚異常」という医学用語で説明されてきました。

しかし、最近では「異常」ではなく「多様性」として捉える動きが広がっています。

なぜなら、色の見え方は人によってグラデーションのように異なり、誰一人として全く同じではないからです。

観点	従来の見方	新しい理解
医学的表現	異常・障害	多様性・個性
社会的対応	配慮・支援の対象	すべての人が使いやすい設計へ
教育・文化的視点	特別扱い	多様な見え方を前提とした学び

このように考えると、色弱という特性は「欠けている」のではなく、世界を違う角度から捉える能力でもあると言えます。

見え方の多様性を受け入れることは、人間社会そのものの多様性を受け入れることと同じなのです。

知ることで広がる共感と優しさ

「あなたには数字が見えますか？」という問いに、見える人もいれば見えない人もいます。

けれども本当に大切なのは、その結果ではなく、「なぜ見えない人がいるのかを理解しようとする気持ち」です。

色弱の人は、信号・服・食べ物・文字・グラフなど、あらゆる場面で少しずつ不便を感じています。

それを知ることで、私たちは初めて他者の視点を想像する力を持つことができます。

状況	色弱の人の感じ方	周囲ができる配慮
信号が見にくい	赤と黄の区別が曖昧	「上・下」で説明するなど位置情報を活用
グラフが読みづらい	線の色が重なって見える	模様やラベルを併用する
教材や標識が見づらい	背景と文字のコントラストが弱い	明度差を強調し、色以外の要素で補う

共感とは、相手の「見え方」に寄り添うことです。

色弱を理解することは、他者の世界を想像する第一歩であり、それが社会をやさしくする力になるのです。

色覚バリアフリーは「特別な支援」ではなく、「みんなが見やすい世界をつくるための共通言語」です。

そしてその根底には、「自分とは違う誰かの見え方を想像する」という、人間らしい優しさがあります。

色弱の人にしか見えない数字は、実は“共感の数字”なのです。

その数字が見えるかどうかよりも、その数字を通して何を感じ、何を学ぶか――。

それこそが、私たちが社会として成長していくために最も大切な視点なのです。